100年生きた木を使って、101年使ってゆけるものを作る

私たち「北の住まい設計社」は合板ではなく無垢材を使った家具作りを続けています。無垢の木は家具になっても呼吸(伸縮)しているため、呼吸を妨げない工法で作り、木の本来の色を生かすために植物性のオイルやワックスで仕上げています。木が生きてきた証の年輪からなる木目、その美しい表情や木肌の色。永く使い込む程に味わい深い風合いへと変化していきます。使い捨てではなく修理をして使い続けられるように、昔ながらの工法で、職人による手仕事で製作しています。地球の環境を考え大切な資源を守っていくために、自然のサイクルと同じだけ、できればそれ以上に長く使ってゆかなければ、と考えています。つまり100年生きた木を人間の都合で切ってゆくのであれば、101年使っていけるものを作っていかなくてはいけない、ということです。

その土地の木で

私たちの工場のある北海道・東川町にも、かつてはたくさんの大木が生えていました。百年近い昔、開拓当時の写真にはやっとのことで開かれた田んぼの真ん中に、人の手ではとうてい取り除くことのできない、大人が4〜5人が手をつないで囲めるようなミズナラの巨木が、小さな写真のあちらこちらに写っているのです。このあたりは、世界でも良質なオーク(ミズナラ)の産地でもありました。私たちはかねてより、近くの森の、その気候風土に合った生活スタイルを、家具という道具を通して提案していきたいと考えていました。そして2015年、輸入材であったチェリーとウォルナット材での家具づくりをやめる決断に至りました。

北海道産木材への切替

主流であったチェリーとウォルナット材をやめるというのは、沢山のファンの方、そしてお店の方々にもご迷惑をおかけしての決断でした。地球のこと、森のこと、そして将来この環境で生きてゆく子どもたちのことを考え、自分たちのモノづくりの在り方を考え抜いてのことですが、会社にとっても大きな試練となりました。揺れる想いを固めてくれた背景には、厚沢部町にある鈴木木材さんの存在が大きかったのです。

木も、人も集まる、鈴木さんの人柄

木を深く愛する社長の鈴木さんのもとには、いろいろな樹種の木が集まります。お料理上手な奥さんと将来を担う頼もしい息子さん、そのご家族の人柄に木だけでなくいろいろな人達も集まります。訪れるたびに居候の方がまるで家族のように住んでいるのもその証拠。折々に送ってくださる漁師さんから分けてもらったという大漁の新鮮な魚たちも、その人柄ゆえ集まってくるに違いありません。
鈴木さんとの出逢いは20年程前。それまで私たちが使っていたアメリカ産のハードメイプルを北海道産のイタヤカエデに変えたことがきっかけでした。「イタヤカエデを使う家具屋さんなんているのかな、もの好きだなっていうのが正直なところだったね」と、鈴木さん。道産のイタヤカエデは時間をかけて適切に乾燥させないと、製品にしてから反り曲がったりしてしまう狂いの多い木でもあります。それでも手間暇をかけて余りある美しい木目と木肌から、今では私たちの家具づくりに欠かせない樹種となりました。

出逢いを待つ木材たち

伐採の現場に行くと、今はプロが少なくなったと鈴木さんは言います。「山のプロじゃなく重機とオペレーターだけで伐採してしまう。そして倒すと、使える品質の物が少ないってさらに伐採してしまう。そんな乱暴な製材をやるんなら俺がとったほうがいいなって。みんながダメっていう部分を、あれもいいよ、これもいいよって買ってくるんですよ。」それぞれの木を見極めずに見境なく伐採してしまうと、いくら森があっても足りません。正しくは、木が「集まる」というより、心を痛めて「集めてしまう」鈴木さん。在庫が増えてしまうと懸念しながらも、少量しか採れず、普通はチップにされてしまうような使い道のない木材たちも、良い出逢いを求めて寝かせておきます。「実際に山から切り出してくるとなると、白刃にたった心境というか…そこにたまたまお金がからんでくるんだけど、果たして本当にこういうやり方でいいのかと心も痛むし悩みます。」

無駄をださない

無垢材の家具作りは、半分が製材と乾燥にかかっていると言っても過言ではありません。材料を生かすも殺すも製材の仕方ひとつで変わってしまいます。ある一定の品質だけを求めてむやみに製材をしてしまうと、「無駄」とされる木材が多くでてしまいます。木がどんな環境で成長し、木目にどんな形で痕跡を残しているのか。ここでも経験をもとに予測し、見極める力が必要になるのです。

適材適所に、いろんな人に使ってもらってなんぼ

写真は、私たちの工場で行った勉強会のもの。3枚の板は右から順に丸太の芯に近づいているところです。黒ずんだ部分は「芯材」といい、割れが入りやすいため避けなくてはいけない部分で、一見して欠点の多い板であることが分かります。成長の遅い広葉樹は樹齢100年でもそれほど太くは育ちません。そんな貴重な木材をなるべく無駄にしないように、引出し材や椅子の桟木などの細い材料を木取ります。この3枚は程度の悪い材料を並べていますので、長ものの幕板などは取れませんが、テーブルの天板として使える様な材料は、限られた丸太からしか出てこないとても貴重な1枚であるということがわかります。
「とにかく貴重な木材は、適材適所に、いろんなひとに使ってもらってなんぼなんです。」と鈴木さん。

北海道の自然の恵みを丸ごと家具に

そんな鈴木木材さんと私たちの想いから始まった「THE FOREST」。第一弾のテーブル天板には、鈴木木材さんで10年近く出番を待ち続けてきた木材たちを使わせていただきました。人それぞれに個性があるのと同じように、多種多様な表情を持つ天板のテーブルです。

Next.DETAIL

NEWS